相続発生後受け取った過去10年以上にわたる公的年金の取扱いについて

お客様よりご相談があり、即答できない問いでしたので、こちらで共有します。

相続専門税理士であれば、未支給年金については、相続税の対象にならず、請求者の一時所得の対象になる、ということは周知の事実です。

ただし、未支給年金とは?と聞かれた際に、一般的には亡くなる直前に受け取るべきであったものという理解はあっても、過去10年以上も受け取っていなかった年金は未支給年金に該当するのか?という問いには即答できる人は少ないと思います。

未支給年金は国民年金法という法律に次のように定められております。

(未支給年金)
第十九条 年金給付の受給権者が死亡した場合において、その死亡した者に支給すべき年金給付でまだその者に支給しなかつたものがあるときは、その者の配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹又はこれらの者以外の三親等内の親族であつて、その者の死亡の当時その者と生計を同じくしていたものは、自己の名で、その未支給の年金の支給を請求することができる。
2 前項の場合において、死亡した者が遺族基礎年金の受給権者であつたときは、その者の死亡の当時当該遺族基礎年金の支給の要件となり、又はその額の加算の対象となつていた被保険者又は被保険者であつた者の子は、同項に規定する子とみなす。
3 第一項の場合において、死亡した受給権者が死亡前にその年金を請求していなかつたときは、同項に規定する者は、自己の名で、その年金を請求することができる。
4 未支給の年金を受けるべき者の順位は、政令で定める。
5 未支給の年金を受けるべき同順位者が二人以上あるときは、その一人のした請求は、全員のためその全額につきしたものとみなし、その一人に対してした支給は、全員に対してしたものとみなす。
 
 
 
結論として、3項により、過去の未請求分についても、未支給年金として考えることができると(私は)読めます(が、結論は一番最後に書いてあります)。
また、未支給年金に所得税が課され、相続税が課されない根拠は次の通りです。

所得税基本通達34-2(遺族が受ける給与等、公的年金等及び退職手当等)

死亡した者に係る給与等、公的年金等及び退職手当等で、その死亡後に支給期の到来するもののうち9-17により課税しないものとされるもの以外のものに係る所得は、その支払を受ける遺族の一時所得に該当するものとする。

9-17 死亡した者に係る給与等、公的年金等及び退職手当等(法第30条第1項《退職所得》に規定する退職手当等をいう。)で、その死亡後に支給期の到来するもののうち相続税法の規定により相続税の課税価格計算の基礎に算入されるものについては、課税しないものとする。(昭63直所3-3、直法6-2、直資3-2、平元直所3-14、直法6-9、直資3-8改正)

さらに、未支給年金について、過去10年以上の請求となると、一度に振り込まれるのではなく、精査して判明したものから順次支給されることもあるようです。そうすると、いつの所得として確定申告すべきか、が問われます。

その答えは次の通りです。

(一時所得の総収入金額の収入すべき時期)

36-13 一時所得の総収入金額の収入すべき時期は、その支払を受けた日によるものとする。ただし、その支払を受けるべき金額がその日前に支払者から通知されているものについては、当該通知を受けた日による。

 

通知があるか否かにより変わるということですね。すると、通知をいつ出すか、振込をいつするかで、利益操作ができてしまうことになります。もちろん年金事務所が主導で行うため、意図的に操作することはないと思いますが、請求者がお願いすればできてしまうようにも思います。なかなか難しい問題です。

ちなみにですが、生前に受け取るべきであった年金をまとめて請求した場合はどうなるでしょうか。

その答えは次の通りです。

(雑所得の収入金額又は総収入金額の収入すべき時期)

36-14 雑所得の収入金額又は総収入金額の収入すべき時期は、次に掲げる区分に応じそれぞれ次に掲げる日によるものとする。(昭63直法6-1、直所3-1、平14課個2-22、課資3-5、課法8-10、課審3-197改正)

(1) 法第35条第3項《雑所得》に規定する公的年金等

イ 公的年金等の支給の基礎となる法令、契約、規程又は規約(以下この(1)において「法令等」という。)により定められた支給日

ロ 法令等の改正、改訂が既往にさかのぼって実施されたため既往の期間に対応して支払われる新旧公的年金等の差額で、その支給日が定められているものについてはその支給日、その日が定められていないものについてはその改正、改訂の効力が生じた日

(注) 裁定、改定等の遅延、誤びゅう等により既往にさかのぼって支払われる公的年金等については、法令等により定められた当該公的年金等の計算の対象とされた期間に係る各々の支給日によることに留意する。

 

結論としては、一括で受け取ったとしても、各年度の年金所得として考えることになります。

利益操作ができてしまうから、とうことですね。裁判例もあります(仙台高判平成 19 年 3 月 27 日訟月 54 巻 4 号)。

 

さて、法律を整理すると、過去の分すべて未支給年金に該当するものとして、一時所得の課税が行われると考えられます。

しかしながら、いわゆる「消えた年金記録」問題によって、新たに加入期間等が見つかった場合で、年金特例法により5年を超えた期間分の年金については、国税通則法第72条を根拠に時効により課税されないようです。根拠としては上記36-14と取扱うことになるため、時効の概念が成立するということだと考えられますが、所得税基本通達34-2に、年金特例法による支給分は除くとの記載がないため、未支給年金との整理ができないように思います。これは、国側の責任として整理されている、と考えればよいのでしょうか?あるいは通達であり、法律ではないから柔軟に、ということでしょうか?

納税者有利ですのでよいのですが、普通に年金をもらっている方は課税され、国側がミスした場合は課税しないのは、いかがなものかと思います。

ご参考になれば幸いです。

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