令和4.2.14東京地裁の事例となります。
<事件の概要>
関係者は次の通りです。
A社(非上場企業)
代表取締役B
取締役C(Bの長男)
その他取締役D
A社はBからA社株式を1株あたり1,500円(額面の3倍)にて取得しました。
また、A社はDからも同様に1株あたり1,500円(額面の3倍)にて取得しました。
そして、A社はCに対して1,500円でA社株式を譲渡しました。
当該取引について、Bはみなし譲渡に該当し所得税課税、Cは享受した経済的な利益が給与等に該当するものとして所得税課税が行われた。
<裁判所の判断>
所得税基本通達59-6の規定による評価方法によれば、A社株式の時価は1株あたり1万7,577円であり、特別の事情は見当たらないことから、この金額をもって、所得税法59条1項の「その時における価額」と認めるのが相当である。
本件取引については、Cが取締役の地位に基づいてA社からその株式を取得したものと認められるため、それによりCが享受した取引時の価額と実際の対価の差額に相当する経済的な利益についても、その地位に基づく労務の対価として支給されたものと解するのが相当である。
この経済的な利益は所得税法28条1項の「給与等」に該当するものと認められる。
<私見>
一般論として、時価の2分の1以下の金額で自己株式の取得を行うと時価課税されるというのは知られているところです。
しかしながら、本件ではそれをやってしまっているというのは、おそらく第三者であるその他取締役から1,500円で購入しているから、これを時価としよう、という理屈で実行してしまったのではないかと考えられます。
税法上では、誰から誰が購入するのか?についてそれぞれ異なる課税関係が構築されるため、注意しなければいけなかったといえます。Dに対しての所得税課税が問題となっていないのはそのためです。
今回は所得税の問題となっていますが、自己株式の論点としてはみなし贈与課税というものもあります。
時価よりも低い価額で自己株式の取得を行うことにより、株主間の価値移転をおこさせるというものです。
複数の目線からケアしなければいけない問題であるため対策も難しいですが、しっかりと対応しなければいけないですね。